記事を書いた人
ALO
VRChatを2万時間以上遊んでいるユーステラグループ創設者。 音声合成ソフトウェアや3Dアバター、AIプロジェクトの企画・開発・監修を手掛けるほか、メディア運営や企業支援にも携わる。 矢野経済研究所のVR関連調査への協力、Wonder Festivalでの報道取材、立命館大学での特別講演など、業界内外で幅広く活動。
※本稿は2022年公開の記事を再編集したものです。一部内容を現在の情報に合わせて更新しています。
まえがき
VRChatを始めて以来、私は企画の終了まで毎年「がとーしょこら様 主催の VRChat Advent Calendar」へ参加してきました。

VRChat Advent Calendarはちょうど2022年が最後の開催となりました。
がとーしょこら様の多忙や参加者数の減少によるものだそうです。
2019年から毎年記事を執筆しており、本記事は2022年公開「VRChat Advent Calendar 2022 DAY14」の記事を、ぶいれぽ向けに再編集・再構成したものです。
2022年もまた、アバター制作やBOOTHでの販売、会社運営など、多くの経験を積んだ一年でした。本記事では、その中でも特に反響の大きかった内容をまとめています。
テーマは以下の4つです。
- VRChatアバターの外注方法と売上
- キャラクターの育て方と媒体
- 会社の立て方と向いている人
- アンチファンへの対応
当時の知見や制作フローをできるだけそのまま残しています。そのため、一部の仕様や数値は2022年当時の情報となりますが、考え方やプロデュースの流れは現在でも参考になる内容です。
当記事は2万文字弱ございますのでお時間の許す折にご覧ください。
それでは、本編をご覧ください。
1章 アバターの外注方法と売上
今回の記事を書くにあたっては、事前に執筆内容に関するアンケートを取っておりました。
まずは、事前アンケートで「全部書く」を除いて最も票数が多かったアバターの作り方と売上について解説します。
フィーちゃんは制作に携わっている方が多く、説明が複雑になるため、本記事ではリルクくんを例に進めていきます。
今回ご紹介する制作フローは、あくまで一例です。
また、本記事は2022年に執筆した内容のため、一部の情報が現在とは異なる場合があります。
本記事では、企画者が特別な専門知識を持たず、制作工程のすべてを外注することを前提として解説しています。
私自身もアバター制作に関する専門知識を持っているわけではないため、認識に誤りが含まれている可能性があります。あらかじめご了承ください。
なお、本記事では販売用アバターを前提に説明していますが、ワンオフアバターを制作する場合でも基本的な流れは大きく変わりません。どちらのケースでも参考になれば幸いです。

まず最初に用意するのが、二面図または三面図です。
二面図の場合は、「前面」と「背面」の2パターンがあれば問題ありません。
※「前面と側面」の二面図を依頼しないよう注意してください。(1敗)
キャラクターデザインの仕様書は、イラストレーターによって求める内容が異なります。
細かく指示があった方が描きやすい方もいれば、すべて任せてもらった方が力を発揮しやすい方もいます。また、具体的なイラストがある方がイメージしやすい方もいれば、先入観を避けるために参考イラストは見たくないという方もいます。
最終的には経験による部分も大きいですが、イラストレーターと相談しながら進めるのがおすすめです。
そのため、絵柄が好みだったり、コンセプトに合っていたりするだけで、必ずしも相性の良い依頼先とは限りません。
ソルシエルシリーズでは、キャラクターデザインをだるだなさん(X:@jonhamu)に一任しています。
依頼時には、
「VRChat向けアバターとして、どれか一つでも『この子が好き』と思えるような、多種多様なコンセプトのかわいいキャラクターデザイン」
というコンセプトでお願いしています。
また、3D化を前提とした三面図では、
- 3D化した際に破綻しやすい箇所はないか
- 物理的・構造的に再現が難しいデザインになっていないか
といった点も確認する必要があります。
リルクくんについては、原案デザインを優先するため、3D化が難しい部分についても一部無理をお願いしています。
そのため、キャラクターデザイナーには最低限の3D制作に関する知識があると理想的です。また、VRChat向けアバターを制作する場合は、VRChatの知識や実際にログインできる環境があるとなお良いでしょう。
もし難しい場合は、3Dモデラーと相談しながら制作を進めることをおすすめします。(∞敗)
完成したリルクくんの二面図がこちらです。

次に、3Dモデラーさんにキャラクターを3Dモデルへ書き起こしてもらいます。
キャラクターデザイナーと3Dモデラーが同一人物の場合は、工程1と工程2を一人で担当することになります。
3DモデラーさんがVRChat未経験の場合は、VRChatのアカウントを作成していただくことをおすすめします。
また、可能であれば報酬に上乗せする形でVRヘッドセットをお渡しするのも十分検討する価値があります。
その理由は、Unity上での見え方とVRChat内での見え方、特にフルトラッキング時の挙動は大きく異なるためです。
VR機器を持っていない場合、確認方法は写真や動画が中心になります。しかし、3Dモデラーから見ればUnity上では問題なく動作していても、依頼主がVRChat内で確認すると印象や挙動が異なり、お互いの認識にズレが生じることがあります。
また、VRChat向けモデルには、
- リップシンク用シェイプキーの設定
- VRChat向けの法線調整
- フルトラッキングへの適性
- ポリゴン数の制限
- ボーンの配置
など、一般的な3Dモデル制作では考慮しなくてもよい追加仕様があります。
著者自身、この分野はそこまで専門ではないため詳しく解説はできませんが、制作方法については検索すると多くの情報が見つかります。ただし、VRChatは仕様変更も多いため、記事が最新の情報かどうかを確認したうえで参考にすることをおすすめします。
これは3Dモデラーに限らず、すべてのクリエイターに共通して言えることですが、制作途中の状態は見せず、完成してから初めて公開したいという方もいます。
私の場合は、事前にマイルストーンを設定し、「この工程まで進んだら一度見せてください」とお願いしています。ただし、この進め方もクリエイターごとに考え方が異なるため、事前によく相談しておくことをおすすめします。
基本的に、工程2(3Dモデリング)と工程3(テクスチャ制作)は並行して進められることが多いです。
テクスチャ制作について特別なことはありませんが、VRChat向け3Dモデルは購入後の改変を前提として販売されることが多いため、改変しやすいレイヤー構成を意識すると良いでしょう。
レイヤーが細かすぎると扱いづらくなり、逆に大まかすぎると変更したくない部分まで一緒に塗り替わってしまいます。適度な粒度でレイヤーを分けることが重要です。
また、色改変用のレイヤーはPSDに保存するだけでなく、PNGとして個別に書き出しておくことをおすすめします。PSDを編集できないお客様でも簡単に色改変を楽しめるようになります。
一見すると手間に思えるかもしれませんが、色改変用PNGは一度作成すれば更新頻度が低いため、作業の合間に書き出しておくと後々役立ちます。
これはすべての制作データに共通して言えることですが、特にテクスチャデータはお客様が直接扱う機会も多いため、ファイル名は分かりやすく統一しておくことをおすすめします。

また、PSDをご利用のお客様向けに、各UVの対応箇所をレイヤーごとにテキストで記載しておくと喜ばれるかもしれません。
続いて、表情のブレンドシェイプ(シェイプキー)についても決めていきます。
こちらは3Dモデラーさんやテクスチャ担当さんから提案いただけることも多いですが、
- どのような表情を実装するか
- 表情を何種類用意するか
といった内容は事前に決めておく必要があります。
完成後にどのような表情を組み合わせて使いたいかをイメージしながら考えると、実用性の高い構成になります。
リルクくんの追加髪型では、髪型切り替え用のブレンドシェイプキーに加え、メッシュごとの髪色差分も同梱しています。

完成した3Dアバターがこちらです。

なお、本記事では二面図から完成まで一気に進んでいますが、実際の制作ではそう簡単にはいきません。
3D化した際の違和感や、2Dイラストの再現漏れなどを確認しながら、イラストレーターと3Dモデラーが何度も打ち合わせと修正を繰り返して完成へと近づけていきます。
また、3Dでは再現が難しい部分をテクスチャで表現したり、逆にテクスチャでは表現しきれない部分を3Dモデリングで補ったりと、それぞれの得意分野を活かしながら制作が進められます。
次に行うのが、PhysBone(PB)のセットアップです。
PB対応についても、テクスチャ制作と同様、特別に解説できることは多くありません。
3Dモデリングやテクスチャ制作と異なり、PBはVRChat独自の機能です。そのため、PBのセットアップを請け負っている方は、VRChatに関する知識や経験も豊富なケースが多いと思います。
実際にPBを設定してみると、「どう調整しても破綻を完全には回避できない」という場面に何度も遭遇します。
フルトラッキングで想定されるあらゆる動きに対して破綻しないよう調整するのは、完璧な陰影が施された1セント硬貨を作るのと同じくらい無謀な話です。
そのため、最も効果的な予防策は、3Dモデラー・PB担当者・キャラクターデザイナーが、制作初期から綿密に打ち合わせを行うことだと考えています。
もし制作が大きく進み、ロールバックが難しい段階まで来てしまった場合は、妥協点を探したり、Constraintや補助ボーンなどを活用して対応していくことになります。
余談
「持続可能なアバター制作」という観点だけで考えると、私はPhysBoneへの移行が始まったタイミングで、VRChat向けアバター制作から撤退するべきだったのではないかとも考えています。
Dynamic BoneからPhysBoneへ移行した当時は、現在のように参考資料やノウハウが充実しておらず、多くの作業が手探りで進められていました。
さらに、既存のアバターや衣装すべてをPhysBoneへ移行しようとすると、新しい技術であることも相まって、多額の費用が発生します。
また、一箇所をPhysBoneへ対応すると、別の箇所で競合や破綻が発生し、修正のための追加修正が必要になることも珍しくありません。
外注で制作を進めている以上、そのたびに費用が発生します。そのため、「こういうことができるのではないか」「この機能を実装するにはどうすればよいか」といった実験的なチャレンジもしづらくなってしまいます。
リルクくんでは、Dynamic Boneでは実装できなかった頬が揺れるPhysBoneなども実装しています。

私は、PhysBoneのセットアップが完了したタイミングでパーティクルを制作しています。
PhysBone対応前ではモデルの仕様が変わる可能性がありますし、VRChatセットアップ後ではExpressionメニューへの登録などが二度手間になってしまうためです。
パーティクル制作については、特別に解説できることは多くありません。
アバターにパーティクルを組み込む場合は、演出できる箇所や機能を洗い出しておくと考えやすくなります。
例えば、フィーちゃん+DLCでは、
- 背中の羽
- 歩行時の軌跡
- ヘアバッジの発光
- ケーブルから飛び散る火花
- 発光する瞳
といった演出を実装しています。
「ここにこういう演出があったらきれいになりそう」「パーティクルだからこそ表現できそう」といったアイデアをまとめて、パーティクル担当者へ共有すると良いでしょう。
リルクくんでは、マイクがONかOFFかをパーティクルで判別できるギミックを実装しています。

好評だったためルミアちゃんにも実装されています。


