VRChatで生まれたものは、現実へ飛び出したあと、何を変えていくのだろう。
1日目のレポートでは、アバターや集会、誰かの「好き」が現実の会場へ姿を現す瞬間を追った。
2日目に見えてきたのは、その先だ。
アバターが毎日使うパソコンのデザインになり、モノラルの声が立体的な音へ変わる。手話が現実とVRChatをつなぎ、美容や筋トレのコミュニティが現実の身体を動かすきっかけになる。VRChatで結成されたバンドはCDを作り、アバターの衣装は人間が着られる服になっていた。
バーチャルが現実に再現されているだけではない。
VRChatで出会った人や活動が、現実での選択や暮らし方まで動かし始めていた。
2026年7月26日、ベルサール秋葉原で開催されたVketReal 2026 Summer。2日目に聞いた話を紹介する。
筆者初のVketRealの1日目の体験レポートになります。出展ブースのまとめ記事ではございません。
目次 閉じる
- アバターと暮らすためのパソコン「NuNuPC」
- モノラルの声へ、位置と距離を与える「ASMRえんじん」
- 声を使わない会話で、現実とVRChatをつなぐ「VRC手話ポータル こねくと」
- 理想のアバターを、現実の自分を好きになる入口へ——「VRC美肌部」
- 一人では続かない運動を、会いに行く予定へ変える「ぶいトレ」
- VRChatで結成したバンドが、現実のギターとCDを持ってきた——「Ignotus Flamberge」
- アバターの服を、人間が着られる服へ——「灰かぶり工場」
- 一つのキャラクターが、3Dモデルから日用品へ広がる「#イフドットコム」
- 最後に残っていたのは、人がここに来た痕跡だった
- VRChatは、現実から離れるためだけの場所ではない
アバターと暮らすためのパソコン「NuNuPC」
1日目の記事では、詳しい話を2日目へ持ち越していたNuNuPC。
改めてブースで目にしたのは、単にキャラクターが印刷されたパソコンではなかった。
PCケースのガラス面いっぱいに、クリエイターのアバターが描かれている。ステッカーやフィルムを貼るのではなく、UV印刷で強化ガラスへ直接デザインを定着させる仕組みだ。白インクの濃度によって透け方を調整でき、内部のRGBライティングと組み合わせれば、光も含めて一つの作品になる。
レーザーでガラスへ絵柄を刻む方法もあり、こちらは内部から光を当てることで彫刻部分が浮かび上がる。



ガラス面そのものをキャンバスにした、アバターデザインPCが並ぶNuNuAIブース。
担当者によると、完成品のPCだけでなく、対応できるケースであればケース単体やガラスパネルの加工も相談できるという。自作PCに使いたい人も、PCの知識に自信がなく構成から相談したい人も、それぞれの入口から自分の一台を作れる。
会場に並んだVketReal展示モデルは、新品として製作された実機を2日間展示し、終了後に点検して購入者へ届ける一点物だった。
イベントで見た「あの一台」が、そのまま自宅へやって来る。
思い出まで含めて持ち帰るような販売方法だ。
ブースには「作者公認!!」の掲示もあった。アバターやイラストを大きく扱うからこそ、クリエイターの許諾を得たデザインであることを、来場者から見える形で示している。
パソコンは、どうしてもCPUやGPUの数字で比べられやすい。
しかしNuNuPCが見せていたのは、「誰と暮らしたいか」「どんな自分の姿を置きたいか」という選び方だった。VRChatで使っている自分の姿が、毎日電源を入れる現実の道具へ入っていく。
推しを眺めるためのグッズであると同時に、創作やVRChatを動かすための機材でもある。アバターと現実の生活が、同じ箱の中でつながっていた。
関連リンク:VketReal展示モデル/NuNuPC公式サイト
モノラルの声へ、位置と距離を与える「ASMRえんじん」
A08の朱護重工では、ASMR編集ソフト「ASMRえんじん」を体験した。
録音した声を立体的に聞かせるには、専門的な知識や高価なバイノーラルマイクが必要だと思っていた。
このソフトが目指しているのは、その入口をもっと広くすることだ。
画面には「右耳」「両耳」「左耳」といったトラックが並ぶ。音を左右へ振るだけではなく、前後、高さ、距離を調整し、リバーブを加えられる。難しい数値を一つずつ追わなくても、音がどこにあるのかを画面で確かめながら動かせる。


収録済みの音声を編集するだけではない。OBSを使ったライブ出力にも対応し、配信中にカーソルを動かして、声が聞こえる位置をゆっくり移動させることもできる。クリック音が配信へ入りにくい操作方法まで考えられていた。

取材を手伝ってくれた友人が実際に聞き比べると、最初は両耳の中央から聞こえていた声が、加工後には右や左から届くようになった。
変わったのは方向だけではない。
響きが加わり、声の余韻まで柔らかく感じられたという。
同じ音声でも、位置と距離が生まれるだけで、聞き手との関係は大きく変わる。耳元へ近づくのか、後ろから呼びかけるのか。音が移動すると、そこにいないはずの誰かの気配まで立ち上がってくる。
配信者や音声作品の制作者はもちろん、VRChatのイベントで声を使う人にとっても、新しい演出を試す入口になりそうだ。
高価な機材がないから諦めるのではなく、いま持っている声から始められる。その発想が、このソフトの一番大きな魅力に感じられた。
関連リンク:ASMRえんじん公式サイト
声を使わない会話で、現実とVRChatをつなぐ「VRC手話ポータル こねくと」


A05-06「VRC手話ポータル こねくと」は、手話を教える一つの教室ではない。
取材を受けてくれた「ことはしろ」さんのX:https://x.com/kotohasiro
VRChatで活動する複数の手話イベントやコミュニティと、手話を学びたい人をつなぐポータルだ。
会場の資料には、学習会、検定対策、ゲーム、バー形式の交流会など、曜日ごとに異なる活動が並んでいた。正しさを学ぶ場だけではなく、まずジェスチャーで伝えてみる場、誰かと話しながら覚える場まで、入口がいくつも用意されている。




手話を学び、使い、交流するためのイベントがパンフレットにまとめられていた。
VRChatでは、使う機器やアバターによって表現できる指の形が異なる。現実の手話をただ置き換えるのではなく、その制約の中で手指の動きやジェスチャーを組み合わせ、視覚的に伝わる方法が育てられてきた。
声を出さずに活動する「無言勢」にも、ろう者や難聴者にも、聴者にも使える。
ブースではWebカメラとVRChatを接続し、現実の会場にいる来場者と、VRChat側にいるスタッフがリアルタイムで交流していた。
来場者がその場で「こんにちは」などの簡単な表現を教わり、カメラへ向かって手を動かす。すると、モニターの向こうにいるアバターが手話で返してくれる。
覚えたばかりの表現でも、伝わる。
その小さな成功が、次の会話へ進む勇気になる。
会場では音声の文字起こしや翻訳を支援する「VRCT」も使われていた。手話だけに全員を合わせるのでも、音声だけに合わせるのでもない。手話、文字、音声を組み合わせ、それぞれ違う方法で会話する人の間に橋を架けていた。
取材時点でグループには約500人が参加。出展も、ろう者、難聴者、聴者を含む17人が現実側とVRChat側に分かれて支えたという。
誰かが一方的に「助けられる側」になるのではなく、同じ出展者として一緒に場を作っている。
VketRealらしい「リアルとバーチャルの接続」は、派手な映像や大きな機械だけではない。伝え方の違う人同士が会話できたことも、確かな接続だった。
関連リンク:VRC手話ポータル こねくと公式X/VRChatグループ
理想のアバターを、現実の自分を好きになる入口へ——「VRC美肌部」



F08「VRC美肌部」は、VRChatでスキンケア、コスメ、美容、ファッションについて話すコミュニティだ。
代表のしんたやさんは、元美容部員で特級コスメコンシェルジュ。累計1万2,000人以上のカウンセリング経験を持つ。
美容の相談を受けることが多かったしんたやさんが、VRChat内で集会を開いたところ、多くの人が集まり、継続的なコミュニティへ発展した。取材時点の参加者は約2,900人だという。
VRChatと美容。一見すると遠いようで、話を聞くほど相性のよさが見えてきた。
外見に悩みがある人ほど、現実の顔を見せて相談することには勇気がいる。VRChatなら、最初はアバターの姿でいい。顔や体型を見られる緊張から少し離れた状態で、「何から始めればいいのか」を聞ける。
HMDによる蒸れや肌荒れ、リアルイベントへ行く日の服装、初めてのメイクやコスプレ。VRChatユーザーだからこそ生まれる悩みもある。
そして、スキンケアや生活習慣は一度話を聞いただけでは終わらない。続ける必要があるからこそ、同じ目標を持つ人と定期的に会えるコミュニティが支えになる。
VRC美肌部では、初心者からコスメ好きまで参加できる交流会「美肌フライデー」を開催している。活動はVRChat内にとどまらず、現実の店舗へ一緒に出かける買い物ツアーや、企業との企画にも広がっていた。
VketRealのブースには、「はよ寝ろバスソルト」、ファブリックミスト、チャーム、アクリルスタンドなどが並び、スタッフはコスプレ姿で来場者を迎えていた。終了報告では商品がほぼ完売したという。
バーチャルでは、誰でも理想の姿になれる。
それは現実の自分を諦める理由にも見えるかもしれない。しかし、VRC美肌部が作っていたのは逆の流れだ。
「アバターのように、現実の自分も少し格好よく、かわいくなりたい」
その気持ちを、今日からできる手入れや服選びへ変えていく。理想の姿が、現実の自分を少し好きになるための入口になっていた。
一人では続かない運動を、会いに行く予定へ変える「ぶいトレ」

F02「ぶいトレ」は、VRChatで同じ動画を見ながら、参加者が一緒に体を動かすコミュニティだ。
活動は、気軽に始める「ちょいトレ」と、しっかり汗を流す「がちトレ」に分かれている。
初心者がいきなり高い負荷を求められるわけではない。デスクトップでもVRでも参加でき、見学だけでも構わない。会場の案内にも「無理はせず、自分のできる範囲で」と書かれていた。


運動時間と強度を分け、自分に合う参加方法を選べる。
筋トレは、一人で始めることはできても、一人で続けるのが難しい。
しかし「決まった時間にVRChatへ行けば、同じように体を動かす人がいる」と思えば、運動は孤独な課題ではなく、仲間へ会いに行く予定になる。
取材時点でグループには約1,000人が参加していた。一方で、人数が増えても、決まった開催時刻に入れる人は限られる。
そこで取材時には、運動したい人同士が、都合のよい時間に出会える「筋トレ・マッチングワールド」の構想も進められていた。
コミュニティが大きくなったから完成ではない。参加できない人がいると分かれば、その人が入れる新しい場所を考える。
ブースに並んでいたのも、マフラータオルやTシャツなど、現実の運動でそのまま使えるグッズだった。VRChatで得た仲間意識を、現実で体を動かす時間へ持ち出せる。
VRは座ったまま遊ぶものだと思われがちだ。
そのVRChatが、現実の身体を動かし、習慣を変える場所になっていた。
関連リンク:ぶいトレ公式X/VRChatグループ
VRChatで結成したバンドが、現実のギターとCDを持ってきた——「Ignotus Flamberge」

B05「Ignotus Flamberge(イグノータス・フランベルジュ)」、略して「イグフラ」は、VRChatで活動するパワーポップハードロックバンドだ。
ブースのスマートフォンでは、メンバーがアバター姿で演奏するライブ映像が流れていた。


ブースでは、アバター姿で行うライブの映像が上映されていた。
現在は、csさんがボーカルとギター、Ponchanさんがギター、つじゃむさんがベース、檜筍さんがドラムを担当する4人編成。取材では、ボーカルが作詞・作曲と大まかなコード、メロディーを作り、各パートの細部はメンバーへ委ねると聞いた。
一人の頭の中にある曲が、ほかのメンバーの演奏を通り、バンドの音になる。
現実の身長と使用アバターの大きさがおおむね反比例している、という話も面白かった。現実で最も背の高いメンバーが、VRChatでは最も小さな姿を使っているという。
現実と同じである必要はない。好きな姿で集まっても、音楽は一緒に作れる。
会場では、夏を題材にした5曲入りの2nd EP『夏夏炎(かげろう)』を頒布していた。青空を切り取ったような明るいジャケットに対し、作品には、夏の暑さへ抗いながら、やがて力尽きていくような陰りも込められているという。
購入特典には歌詞解釈本も用意されていた。
曲を聞いて終わりではなく、なぜこの言葉を選び、どんな物語を込めたのかまで届けようとしている。
ライブ映像、CD、音楽カード、歌詞解釈本、ピック。
VRChat発のバンドは、音だけでなく、手に取れる形をいくつも作って現実の会場へやって来ていた。
関連リンク:Ignotus Flamberge公式X/『夏夏炎』クロスフェード
アバターの服を、人間が着られる服へ——「灰かぶり工場」

E04「灰かぶり工場」が行っているのは、現実の服を3D化することではない。
VRChatでアバターが着ている衣装を、人間が現実で着られる服へ作り直すことだ。
制作者は、現実の縫製工場で企画デザイナーとして働くVRChatユーザー。アバター衣装の魅力と、現実の服を作るための条件。その両方を知っていたことが、企画の出発点になったという。


服の第一弾は、アズキちゃんの赤いパーカー。
大きめのシルエット、前後へ配置されたワッペン、袖やポケット周辺の細かな意匠まで、アバター衣装らしい情報量を現実の布と縫製へ置き換えていた。取材によれば、会場分は13時ごろに完売した。
帽子の第二弾は、キプフェルの黒い帽子だ。

猫耳の形と、魚の骨をかたどった飾りまで現実の帽子として再現されている。
帽子そのものの形で猫耳を表現し、側面には魚の骨をかたどった飾りが付いている。大きなキャラクターイラストを印刷しなくても、知っている人には「キプフェルの帽子」だと伝わる。
こちらは頒布数は不明だが、開場から30分程で完売したという。数字の大きさよりも、アバターと同じものを現実でも身につけたい人が、実際に会場へ足を運んだことが重要だ。
3D衣装であれば、完成したデータを複製して届けられる。
現実の服には、生地、裁断、縫製、検品、保管が必要だ。一着だけを作るのではなく、ある程度まとまった数を生産しなければならない。在庫を抱える難しさも生まれる。
バーチャルの衣装を現実へ持ち出すと、見た目を再現するだけでは終わらない。人間の身体で着られる形へ翻訳し、製造できる商品として成立させる必要がある。
パンフレットの撮影にも、VRChatで知り合ったカメラマンやモデルが関わったという。
服だけがバーチャルから現実へ出てきたのではない。VRChatで生まれた人間関係が、企画、製造、撮影、販売まで支えていた。
次の展開として、取材時には「まめひなた」の衣装も検討されていた。
アバターと同じ服を、現実の自分が着る。その逆向きのものづくりは、まだ始まったばかりだ。
関連リンク:灰かぶり工場公式X
一つのキャラクターが、3Dモデルから日用品へ広がる「#イフドットコム」

C01「#イフドットコム」では、3Dアバター、衣装やテクスチャ、イラスト、現実のグッズが一つの机に並んでいた。
#イフドットコムの代表的な作品は、ユニコーンをモチーフにしたオリジナル3Dアバター「URU(ウル)」だ。
VRChat向けのアバターとして販売したあとも、Quest対応版、衣装、カラーバリエーション、ちびアバターなどが追加されてきた。完成品を一度出して終わるのではなく、使う人と長く付き合えるように育て続けている。
会場には、サンドイッチとキャラクターを描いたイラスト本『picnic!』、同じ図柄のランチトート、クリップ、ステッカーなどが並んでいた。
中でも目を引いたのが、LEDで光る透き通りアート「3Dリトファン」だ。
リトファンは、素材の厚みによって光の透け方を変え、背面から照らすことで絵を浮かび上がらせる。印刷されたイラストを眺めるのとは違い、LEDを点けた瞬間、凹凸の中に刻まれていた絵が光とともに現れる。
会場では全2種が各6,000円で並び、追加1,500円で明るさセンサーも付けられる仕様だった。
同じ絵でも、本なら眺める作品になり、トートなら昼食を持ち歩く日用品になる。
3Dモデルからイラストへ。イラストから紙や布へ。そして3Dリトファンでは、平面になった絵が、光と凹凸を持つ立体作品へ戻っていく。
一つのキャラクターが、媒体を変えるたびに別の役割を持っていく。
普段はBOOTHの画像やVRChatのアバターとして見る作品を、現実の会場では手に取って大きさや素材を確かめられる。そして、その場にいる制作者へ直接感想を伝えられる。
取材時には、会場の商品はほぼ完売。残ったイラスト本とランチトートは、後日通販すると案内されていた。
オンラインで育ててきたキャラクターへの思いが、現実の売り場で目に見える形になっていた。
関連リンク:#イフドットコム BOOTH/オリジナル3Dモデル「URU」
最後に残っていたのは、人がここに来た痕跡だった
すべての取材を終え、最後に目へ入ったのは、来場者の文字と絵で埋め尽くされた大きな壁だった。



空白を探すのが難しいほど、来場者の名前、感想、イラストが残されていた。
短い感想、アバターの似顔絵、名前、海外からの来場を思わせる言葉。
一つひとつは小さくても、壁全体で見ると、2日間に集まった人の熱量が物理的な密度になっている。
隣には、自分のアバターをチェキ風に印刷して残せる「Myアバターチェキウォール」もあった。
現実の壁に残った手書きの文字。
バーチャルの姿を印刷した一枚の写真。
方法は違っても、どちらも「自分はここにいた」と伝える痕跡だ。
1日目、ペンタラクティブの展示で聞いた「その人がその場にいた痕跡が残る」という言葉を思い出した。
VketRealの会場そのものも、最後には人の痕跡で完成していた。
VRChatは、現実から離れるためだけの場所ではない
2日目に出会った活動は、どれもVRChatの中だけでは終わっていなかった。
アバターをパソコンへ描く。
声へ位置と距離を与える。
手話で会話する。
現実の自分を手入れする。
仲間と身体を動かす。
バンドで曲を作る。
アバターの服を人間の服にする。
キャラクターを日用品へ広げる。
VRChatは、現実から離れて好きな姿になれる場所だ。
しかし同時に、そこで得た勇気や知識、人とのつながりを、現実へ持ち帰る場所でもある。
バーチャルとリアルは、どちらか一方が本物なのではない。
行き来するたびに、両方の自分と暮らしが少しずつ変わっていく。
VketReal 2026 Summerの2日目で見えたのは、その往復を続ける人たちの姿だった。

